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教育コラム【「活用」する力は育っているか】 日本教育新聞社 提供

『日本教育新聞社』の編集者によるオリジナルの書き下ろしコラムです。

 

【「活用」する力は育っているか】

 平成19年4月24日に第1回目としてスタートした「全国学力・学習状況調査」は本年度、5回目を迎え4月に実施するはずであったが、東日本大震災の影響によって、従来のような形式での調査の実施が見送られ、希望する教育委員会などへの問題冊子の配布、活用に変更されている。今後、どのような影響が出るだろうか。

 

 同調査の導入当初の背景には▽学校教育の現状や課題について十分に把握する必要性▽国際学力調査結果から学力や学習意欲が低下傾向にあった▽義務教育の質を保証する仕組みの構築の要請―などがあった。
 調査対象を原則として、小学6年、中学3年の全児童・生徒とすることで、全国的に学力や学習状況を把握して、「教育の結果を検証し、改善を図る」ことが主な目的である。各学校での指導方法の改善であったり、各教育委員会が進める教育の検証、改善につながることが期待されている。
 調査教科は「国語」と「算数・数学」である。主として「知識」を問うA問題と、主に「活用」に関するB問題がそれぞれの教科で出題されている。いわゆる「B問題」が国際学力調査で問われたPISA型学力に対応したものである。

 

 20年度、21年度は小6、中3の全児童・生徒を対象に実施後、21年9月に民主党政権が誕生したことによって実施方法が見直され、22年度からは抽出調査に変更されている。この時の抽出対象校と希望利用校の割合を見れば、小72.8%、中75.0%である。
 本年度は東日本大震災の影響によって調査は見送られたが、問題冊子は作成されており、配布を希望する学校(小77.6%、中73.5%〈9月1日現在〉)には配布、利用されている。
 抽出した昨年度と比較した時には、小学校での割合が下がったものの、その利・活用は数字の面では遜色がなかった。東日本大震災の被害が大きかった岩手、宮城、福島の東北3県でも小・中学校全体での希望率(岩手79.5%、宮城82.0%、福島95.6%)は、全国全体での希望率76.2%(公立のみでは77.5%)を上回った。

 

 本年度の調査問題もすでに公表されている(国立教育政策研究所ホームページに掲載)が、小学校が本年度から新しい学習指導要領の全面実施年度に当たっていること、中学校では来年度から全面実施を迎えるものの、移行措置期間として数学などは新しい学習指導要領を先取り実施していることを踏まえ、新指導内容を問うものも出題されており、これまでの指導が適切であったかが即座に問われる。
 また、いわゆる「B問題」には、小学校の国語では、例えば、「伝記を読んで自分の考えを深める」(植村直己)などが出題されている。冒険家・植村直己についての資料「1」と「2」を読み比べ、学級の中での児童同士の話し合いの内容を文章にしたものを出題。空白部分に資料から適切な言葉を選ぶなどを問うている。ここでは「読む能力」が求められ、学習指導に当たっては▽読書のジャンルの一つとして伝記を読む▽自伝や評伝を比べて読む▽自らの生き方を振り返って考えを深める―などを求める。
 小学校の算数では「事象の観察と複数条件を基にした判断」として、宅配便の荷物サイズや送料の求め方を考える場面が設定されている。荷物の3辺の合計から、荷物サイズを特定する。あるいは、あらかじめ分かっている3辺の合計と重さから、送料を特定するというものだ。
 中学校の数学では、「事象の数学的な解釈と問題解決の方法」として、生徒会によるペットボトルの回収を素材に出題する。過去2年間の月別回収数を折れ線グラフで掲示し、それぞれの年の1月の回収量の増減比較を問い、キャップの入った回収箱の重さがあらかじめ分かり、キャップの重さが一定である時、キャップ1個の重さの他に何を調べてどう計算すれば、およそのキャップの個数が分かるかなどを聞いた。
 いずれも、児童・生徒には身近に感じられるように工夫された問題である。

 

 だが、学校を回るとこんな話しを聞く。中学校の教室の後ろ側に、同じ形のロッカーを入れる必要が生じた時に、何個入れればいいか、数式としてすぐに立てられなかった。数学の学力が低い生徒たちではない。数学の時間には問題が解けるのに、学習成果が生活場面に生きないのだという。
 教科学習だけでなく、その力を生活の中でいかに「活かす」か。指導者や保護者が意識していれば、日常の場面や家庭の中にも、たくさんの「良問」を見つけ出すことができるのではないだろうか。毎日のこうした積み重ねが「活用」に至る能力を身に付けるのだろう。

 

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